特集「過熱! 中学受験狂想曲(パニック)」を担当した記者の山田雄一郎です。東洋経済オンラインのメルマガ読者の皆さんにアンケートへの回答をお願いし、取材OKの方にお話を聞かせていただきました。ご協力、ありがとうございました。
最初にお会いしたのは仕事始めの1月4日。本を読むことが大好きな娘さんを持つママでした。お話を伺うと、すべてに前向きで好奇心の塊のような娘さんです。自分でどんどん勉強するお子さんで、ママに「親が大変だった」という思いはありません。受けた中学はすべて合格し、その中から娘さんが選んだのは「自分と同じ夢を持っている人が多そうな中学校」。「ここなら明るい空気や品格を身にまとうことができそう」とママも納得です。
次にお会いしたのは、見るからに暗い表情をしたパパ。「息子は受けた中学すべてに合格した」と言います。ところが「中学受験で燃え尽きてしまった」。入学後は勉強をさぼりがち、中1から東大進学という夢に向かって燃える同級生らについていけない。部活の人間関係もギクシャク。次第に中学校を欠席しがちになり、ついに不登校になってしまいました。「中学受験に不満というより、受験させたこと自体を後悔している」と肩を落としています。
3番目は「御三家(開成、麻布、武蔵)」と呼ばれる難関中学出身のパパ。副業で自ら家庭教師をするほどの業界通です。息子に理科を教えるために夜中の1時まで予習するという熱血パパですが、「追い込みの大事な時期に息子が反抗期に入り、勉強しなくなった」と残念そう。でも諦めてはいません。「下の子は反抗期に入る前に受験勉強を終わらせてしまおう」と前向きです。
4番目は娘さんが私立小学校に通っていたパパ。小学校では、放課後に学童を兼ねて外部の提携先塾の個別指導を受けられるということで安心して任せていました。ところが大事な時期に講師がバタバタと辞めてしまい、「それが原因で受験に失敗した」。でも娘さんは強かった。失敗をバネに中学で勉強を頑張りました。中学からは入れなかったものの、高校から第一志望の学校に入ったそうです。
5番目は2月に受験を控える息子さんの現役中受ママ。2つの大手塾で月12万円、家庭教師に月18万円かかると言います。夏休みなどの特別講習で10万、20万、30万円と飛んでいくそうです。でも世帯年収は2200万円。お金がもったいないとは思わないそうです。
6番目は嬉しさいっぱいのママ。娘さんは私立小学校に通っていました。そのまま大学までエスカレーターで行けたのですが、「ぬるま湯につけておくのはどうかな」と受験を娘さんに勧めました。大手塾とカリスマ家庭教師を併用し、偏差値爆上がり中の人気校に合格。中学受験には満足しているそうです。
7番目は苦虫を噛み潰したような表情のパパ。息子さんは通信教育で受験勉強し御三家への進学を目指しました。結果は不合格。滑り止めで受けたミッション系の私立に受かりましたが、そこを蹴り、公立の中学校に。蹴った私立はママの母校でした。「なんでママに内緒で母校への進学を断ったの?」。中学に進学するとママから息子さんへの暴力が始まり、家事の放棄も目立つようになりました。息子さんの朝食のおかずがハム一枚、のり一枚なんて日もザラ。「これはいかん」と離婚しました。
8番目は金融機関にお勤めのママ。公立高校から東大に進学したそうですが、入学すると「御三家出身の同級生は知識が広く、教養が深い」と愕然としたそうです。「伝統のある中学校に入るのは外見的な学歴以上のものがあるのかな」との思いに至り、自分の息子に御三家への進学を勧めました。小学4年生の時に大手塾へ入塾。小6では苦手科目の克服のために現役東大生を家庭教師につけました。結果は合格。息子さんは現在、東大を目指す御三家の生徒が集まる塾に通っているそうです。
他にもさまざまなママやパパがいました。それぞれの家庭にそれぞれのドラマがあります。
子どもの自己実現の足がかりとなり、家庭に歓喜をもたらすこともあれば、子どもや親が悲劇のどん底に陥ることもある。どちらにしてもお金はかかる。御三家なら300万円はザラ、多い人は500万円以上ーーそれが今の中学受験のようです。ジャーナリストの小林美希さんの記事「夫婦に生じた修復不能の溝 課金地獄の果ての離婚危機」を編集しているうちに、短歌のようなものが頭に浮かんできました。
御三家に
夢を描いて
課金沼
金もきずなも
元に戻らず
ぜひ、お手にとってご覧ください。
担当記者:山田 雄一郎(やまだ ゆういちろう)
東洋経済記者。1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。
71ページ | ■中学受験のデマと思い込み ⑧最難関校に多数合格者を出している塾がいい塾? 【誤】:さらに早稲田アカデミーは関西の馬渕教室とも提携しており、1月に関西最難関中学の受験を終えた馬渕教室の精鋭たちが首都圏の最難関中学の合格をさらう遠征受験の結果の少なくとも一部が、早稲田アカデミーの合格者にもカウントされている。 ↓ 【正】:上記の1文を削除 |